地球環境研究助成

地球環境研究助成02-02

森林保全による気候変動緩和を実現するための生態系・社会システム複合モデルの構築

代表研究者
横浜国立大学 環境情報研究院・准教授
森 章

研究の背景・目的

 地球温暖化の緩和において、二酸化炭素の排出抑制と大気中からの隔離が重要事項である。この点で、森林の担う役割は極めて大きい。樹木や土壌は巨大な炭素貯留庫である。樹木の光合成、一次生産の過程で大気中より吸収される二酸化炭素の量は、年間に人為的に放出される二酸化炭素の30%にまで至る。さらには、荒廃地や空き地、都市や耕作地などで森林化を進めることで、地球全体で二酸化炭素をさらに2050億トンを吸収できる可能性がある。これは、気候変動枠組条約のパリ協定に基づき、温暖化を2℃以内に抑えるために必要な炭素隔離量に相当する。2050年までに、陸上から約2.2憶ヘクタールもの森林が消失するとの予測がある中では、森林保全による炭素隔離機能の保持は、気候変動の影響緩和に必須と言える。

研究内容・課題

 気候変動が顕著になる中、土地利用を再考する必要性が高まっている。炭素貯留源としての森林の役割、持続可能な森林管理の在り方を早急に精査することが求められている。ここで留意すべき点は、国際的な森林施策の枠組では植林化が主目標である。しかし、生物多様性に富む森林生態系は、植林地の炭素吸収能力を凌駕する。本研究では、そのような多様性を育む森林の保全又は再生による炭素収支への影響、さらには経済コストへの帰結までを定量化する。

課題解決の研究手法

 気候変化予測シナリオをもとに、森林樹木多様性の予測モデルを構築する。次に、既存の局所データから、各地域の「多様性―生産性」の関係式を得る。以上を統合して、気候変動シナリオに応じた、森林生態系の炭素隔離能力の変化を全球規模で推定する。なお、二酸化炭素をめぐる問題では、大気からの吸収だけではなく、放出を抑制することも肝要である。各国々の炭素放出への責任は、自国の森林消失や土地変化だけではなく、輸入等の貿易を介した他国への責任も知られている(炭素フットプリント)。本研究では、貿易データ等を用いて、各国々の炭素フットプリント、経済負荷を定量化する。

期待される研究成果

 本研究では、全球規模の「樹種多様性が支える炭素隔離能予測モデル」に、国や地域ごとの「炭素フットプリント予測モデル」を重ね合わせる。これにより、森林化と樹種多様化による炭素吸収能力の向上と経済活動に伴う炭素放出の抑制の効果を、各地域や国ごとに経済評価も含めて精査する。とくに、大規模排出国が土地利用を再考し炭素放出による経済負荷を内部化することが、パリ協定の達成に必須である。このような社会経済的な要因を踏まえて、国ごとの炭素収支の在り方を定量的に問う「生態系・社会システム複合モデル」を構築する。