地球環境研究助成

地球環境研究助成02-03

気候変動が北極圏生態系に及ぼす影響を評価するための海生哺乳類の生態調査

代表研究者
東京大学 大気海洋研究所・特任研究員
岩田 高志

研究の背景・目的

 気候変動に伴う北極圏の気温や水温の上昇、海氷の減少といった環境がここ数十年で急激に変化したことが報告されている。このような環境の変動は、北極海の生態系に影響を及ぼすことが考えられる。いま必要なのは、環境変動が北極圏の生態系に与える影響を正しく評価し、必要な対策を講じることである。しかし、生態系は多種多様な生物によって構成され、それらを個々に調べるには、大規模な予算と人手を必要とする。そこで、効率的に環境変動が海洋生態系に与える影響を把握するために、海生哺乳類などの海洋高次捕食者の行動を生態系変動の指標として用いる試みがされている。なぜなら、様々な栄養段階で現れる生態系中の変動が食物連鎖の上位に位置する動物の生態の変化に統合的に反映されるからである。この意味で、海生哺乳類は気候変動の鋭敏なバイオセンサーだと言える。本研究では、海生哺乳動物であるクジラやアザラシの生態調査をすることで、海洋環境変動が北極圏の生態系に与える影響を評価したいと考えている。

研究内容・課題

 本申請研究では、野外調査とデータ解析に取り組む。ノルウェーおよびアイスランド沿岸域においてシロナガスクジラを初めとする海生哺乳類の野外調査、北極圏生態系の比較対象として南極においてウェッデルアザラシの野外調査を実施する。動物の行動データと動物を取り巻く環境データを取得するために行動・環境記録計を動物に装着する。野外調査により得られた潜水深度、遊泳速度、加速度、地磁気、水温データからクジラやアザラシが利用した海域の位置や深度、経験した環境を把握する。動物への環境変動の影響は、種や生息域ごとに異なることが考えられるため、種ごとや海域ごとにおいて、特異的な環境変化への応答を把握する。本研究の課題は、海洋環境変動が、極域に生息する海生哺乳類に与える影響を評価することである。

課題解決の研究手法

 これまで動物の生態研究と海洋環境モニタリングはそれぞれ独立に実施されてきた。近年、直接観察することの難しい動物の生態を調べるために動物装着型記録計が使用されている。それらの記録計は、動物の位置情報や詳細な行動のほかにも、水温や塩分などのパラメーターを記録することができる。そこで本研究では、環境変動が極域の海洋高次捕食者に与える影響を評価するために、動物装着型記録計用いて彼らの行動と彼らを取り巻く環境を同時に記録する。

期待される研究成果

 本研究では、行動・環境データロガーやビデオの映像など様々なパラメーターを組み合わせ、海生哺乳類の生態および彼らを取り巻く物理・生物環境を詳細に明らかにする。本研究対象の動物の行動データおよび彼らを取り巻く周辺の海洋環境(物理・餌生物)データを統合し、彼らが利用していた環境の特徴を把握する。それらの結果から環境変動によるクジラやアザラシの採餌場所の変化などを捉えることができると期待される。