地球環境研究助成

地球環境研究助成03-02

H2Oを電子源とするCO2の光還元に有効に機能する可視光応答型光触媒開発

代表研究者
京都大学 大学院工学研究科・准教授
寺村 謙太郎

研究の背景・目的

 2015年に結ばれたパリ協定で、日本は温室効果ガス(主にCO2)の排出を、2030年までに2013年度比で26%削減するとしている。さらに最近では我が国の首相が2050年における国内の温暖化ガス排出を実質ゼロとすることを宣言した。しかしながら、石炭火力発電を即時中止することは現実的ではない。CCS(CO2 Capture & Storage)に代表される温暖化ガス排出削減技術は開発されているが、根本的な解決にはCO2を再生可能な資源として有効利用可能な人工光合成技術(特にH2Oを電子源とするCO2の光還元に有効に機能する可視光応答型光触媒)の開発が必須である。

研究内容・課題

 本研究の目的は、CO2の光還元に高いCO2転化率およびCOへの選択性を示す新規可視光応答型光触媒の開発である。この目的の達成のため、申請者は金属イオンドープによるバンドエンジニアリングに着目した。これまでに我々はロジウムイオン(Rh3+)をドープした酸化ガリウム(Ga2O3)やアルミニウムイオン(Al3+)をドープしたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)がH2Oを電子源とするCO2の光還元に高い活性を示すことを見いだした。本研究ではこれらの光触媒をベースとして下記に示す3つの課題を設定した。
課題① Ga2O3:RhおよびSrTiO3:Alの表面修飾によるCOへの選択性の制御
課題② 各種光触媒への金属ドープ手法の確立による可視光応答化
課題③ G光触媒表面におけるCO2の吸着挙動および反応機構の解明

課題解決の研究手法

 表面におけるCO2濃度をコントロールするために、Ga2O3:RhおよびSrTiO3:Alへアルカリ土類金属や希土類の表面修飾を行い、H2Oを電子源とするCO2の光還元におけるCOへの選択性の制御を達成する。さらに、計算科学の手法を用いてドーパントである金属イオンと母体となる光触媒の候補物質を事前に絞り込み、ドープ手法について検討を行い、可視光照射下でのH2Oを電子源とするCO2の光還元の検討を行う。CO2の吸着挙動や反応機構を明らかにするために、大型放射光施設SPring-8において、赤外吸収スペクトル測定、CO2-TPD(昇温脱離法)プロファイル測定、X線吸収スペクトル測定を同時に行うOperando分光法を確立する。

期待される研究成果

 国内外におけるH2Oを電子源とするCO2の光還元に関する研究は非常に少ないのが現状である。我々はこれまでにこの反応に高い活性および選択性を示す光触媒群を見いだしており、可視光応答型光触媒開発のアドバンテージを有していると考えている。本研究によって効率的に機能する可視光応答型光触媒が見出されれば、その結果は世界初であり、太陽光利用によるCO2再資源化の実用化研究が活性化されると期待できる。