受賞団体訪問
豊かな郷土の環境と中高一貫教育で伸び伸び育つ主体性と考える力 |
第53回(2022年度)奨励団体賞 個人賞入賞4作品 和歌山県立 田辺中学校 |
![]() |
個人賞受賞の生徒たちと西嶋淳田辺中学校・高等学校校長(後列左)、理科担当の杉本祐司教諭(後列右)
|
実地の体験で深まる学び |
||||||
2022年に行われた第53回市村アイデア賞は、全国より30,033件の応募をいただきました。 今回、奨励団体賞と市村アイデア奨励賞など4人の個人賞の受賞を果たした和歌山県立田辺中学校(以下、田辺中)は、初応募で初受賞という快挙を達成されました。 田辺中は、県立田辺高校の理数専門学科である自然科学科に接続する中学校として、平成18年に併設された和歌山県で3校目となる県立中学校です。理数教育と体験活動を重視した特長ある中高一貫教育を行っています。 田辺中の所在地である田辺市は和歌山県中南部に位置し、和歌山第二の都市であると共に、海と山に面し熊野本宮大社をはじめ熊野参詣道や、日本初のナショナルトラスト運動の発祥地でもある田辺湾の天神崎など、歴史と自然豊かな地域でもあります。 西嶋校長は「学校の目標として『確かな理数の学力』を掲げていますが、本校では体験的な学習も非常に重視しています。コロナ禍のなかでも工夫しながらこうした活動を進めています」と語ってくれました。 その言葉どおり、田辺中では「実験理科」「演習数学」という理数系の独自教科だけでなく、アドベンチャーワールドでの「動物飼育体験学習」、ジオパークや天神崎での「自然観察学習」など、教室での学習に留まらない実地での豊富な学びの体験を取り入れています。
|
コロナ禍で培われた生徒の主体性 |
||||||||
市村アイデア賞への応募を指導された杉本教諭は、今年度から田辺中へ赴任されたそうです。他校でも市村アイデア賞への応募経験があったとのことで、田辺中でも生徒の可能性へのよいチャレンジになるという判断で取り組むことにしたそうです。 「賞をいただけるとは正直思っていなかったのですが、わたしたちの想像を越える作品も多く生徒の力に感心しました。アイデアを思いつくのも大事なのですが、そのアイデアを論理的に説明できる力も大切だと思っています。そういう点で受賞した生徒だけでなく、参加した生徒全員にとって、とてもよいチャレンジになったとうれしく思っています」と杉本教諭。 今回市村アイデア賞には、1-2年生166名全員が夏休みの課題として参加したそうです。夏休みの2週間ほどまえに市村アイデア賞の説明と過去の受賞作品の紹介をした程度であとは夏休み明けの提出を待つという流れだったそうです。 ただ、田辺中には、ひとりでイルカの骨格標本を作った生物部の生徒や、第10回きのくにジュニア科学オリンピックでの優勝、缶サット(空き缶サイズの模擬人工衛星の打ち上げコンテスト)への参加など生徒たちの自主的な活動が盛んです。また、杉本教諭は「コロナ禍で困難になった共同作業が、逆に生徒たちの『物事をひとりで考えるスキル』を高めたように思います。これも今回の生徒の作品に反映されているのでは」と語ります。西嶋校長も「本校の生徒たちには、制限されたなかでも工夫して常に前向きにやっていこうという姿勢を感じます」と語ってくれました。こういった生徒の自主性やひとりひとりの考える力が、今回の初応募初受賞の背景にあるのだと納得させられました。
|
||||||||
自ら見つけて探究する姿勢 |
||||||||
田辺中は、6年間の中高一貫教育のなかで「郷土から未来に発信できる人間の育成」を掲げています。西嶋校長は「本校の生徒には高校受験のない6年間という長い時間が与えられています。受験勉強のように『答えの決まっているもの』を学ぶことも大切ですが、自分の関心のもてる分野を見つけて、『答えの決まっていないもの』に対して、自分たちで解決の方法や解決の過程を探究していく姿勢を身につけてほしいと思っています」と語ってくれました。 今回、田辺中の先生方のお話や「郷土から未来に」の言葉で思い浮かぶのは、田辺市を終の住処とした粘菌の研究で知られる南方熊楠です。実地の採集・研究を常とし、語学に堪能で博物学から民俗学、文学、生物学など幅広い分野で功績をあげた知の巨人、南方熊楠。西嶋校長は「まさに熊楠さんのような学びの姿勢を持って、理数の力をベースにしながら狭いカテゴリーに収まることのない生徒に育っていってほしいです」と最後に語ってくれました。 |
||||||||
個人賞受賞のみなさんにお聞きしました |
||||||||
(取材日 2023年2月3日 和歌山県田辺市)
|