市村産業賞

第41回 市村産業賞 功績賞 -03

Stop&Start Systemにおける常時噛合いギヤ式始動機構

技術開発者

トヨタ自動車株式会社
エンジンプロジェクト推進部
主査 浅田 俊昭

技術開発者

同 社 同 部
主幹 杉村 一昭

技術開発者

同 社 第2パワートレーン先行開発部
主任 酒井 和人

推  薦 社団法人 日本自動車工業会

開発業績の概要

 近年、地球温暖化等の問題から自動車の低燃費、低CO2に対する期待は大きくなってきている。1981年からギヤ飛込み式スタータによるアイドルストップシステムを量産してきたが、ユーザーからはより静かなエンジン始動の実現や、いつでも発進できるエンジン始動応答性改善への期待があり、アイドルストップが普及に至っていないのが実状であった。広く普及させるためには「静粛&低振動なエンジン始動」、「いつでも発進可能な始動応答性」の実現が必須であった。
 本開発技術の常時噛合いギヤ式始動機構(以下、常噛機構と略す)とは、ワンウェイクラッチ(OWC)とボールベアリングを使ってスタータピニオンギヤとリングギヤを常に噛み合わせることにより、両ギヤ間の歯打ち音と噛合いまでの時間ロスを無くしたものである。図1に機構断面と作動概要を示す。エンジン始動時はOWCが係合してスタータ駆動力がクランクシャフトに伝達される。エンジン始動後はOWCが解放されてリングギヤは停止し、エンジンだけが回転する。
 常噛機構は、a) 摩擦係数変化の激しいエンジンオイル中での使用かつ、車両からの様々な入力に耐えるOWC、b) 高周速軸インナーオイルシール、c) 大径薄肉リングギヤの高精度生産技術の開発により実現できた。エンジン始動時のクランクシャフト回転変動の影響を受けないリングギヤを駆動することで、ピニオンギヤとの歯打ち音が消失し車内始動音が従来式スタータに比べ4dB低減した (図2)。また、エンジン停止処理中のユーザー再発進要求にも迅速に対応可能な始動応答性を実現した (図3)。
 常噛機構を用いたTOYOTA Stop&Start Systemは自然な運転操作で快適性(騒音・振動)・始動応答性を損なう事無く、アイドルストップによる燃料経費削減・CO2排出量削減・車両停止時の圧倒的静粛性をユーザーに提供可能となった。本機構は2008年から欧州向け車両に搭載され、都市部渋滞走行時には約10%の燃料経費とCO2排出量の削減を期待できる。今後、本機構の普及で地球環境課題改善に、より一層の貢献が可能となる。

図1 機構断面と作動概要
図1 機構断面と作動概要
図2 車内始動音比較
図2 車内始動音比較
図3 始動応答比較
図3 始動応答比較