市村産業賞

第50回 市村産業賞 貢献賞 -03

ヘリウム密封型大容量ハードディスクドライブの開発

技術開発者 株式会社 HGSTジャパン
Technology Development & Platform Staging
Director 青柳 彰彦
技術開発者 同社 Program Management Office
Director 石橋 和幸
技術開発者 同社 Sealed Process Development
Technologist 田村 仁
推  薦 一般社団法人 日本機械学会

開発業績の概要

1.開発の背景
 急拡大中のクラウド市場では大容量で低消費電力のHDD(ハードディスクドライブ)が要求されている。しかし既存の磁気記録技術では大幅な容量増加は難しく、また次世代磁気記録技術も未成熟であるため、他の方法で容量を大幅に増やす必要が出てきた。

2.開発技術の概要
 HDD内部にヘリウムを充填すると、空気より分子量が小さいことから流体起因振動が大幅に減り、また回転するディスクとの抵抗が下がって消費電力を減らせるメリットがある。そこで、ヘリウムを保持するために従来のHDDに更に一枚カバーを追加し、縁をレーザ溶接して完全密封する構造を採用した。しかし、ダイカスト製ベースに含まれる残留ガスがレーザの熱により膨張・破裂してカバー材を吹き飛ばし、次のレーザ照射の際にカバー材が不足する問題が発生した。ここでレーザ照射位置を端に寄せると縁近傍のカバー材のみが吹き飛び内側にカバー材が残ることを発見し、高品質なレーザ溶接技術を確立した。他にも、ベース形状・ダイカスト工程・レーザ照射条件の最適化を行い、ヘリウム密封品質を量産に耐えられるレベルまで向上させた。

3.開発技術の特徴と効果
 この技術を適用した世界初のヘリウム密封型HDDは、下記の特徴を持っている。
(1)流体起因振動が減ることからディスクの厚さを薄く出来、搭載ディスク枚数を従来の5枚から8枚に増やし容量を6割増加させた。(2)消費電力を18%〜35%低減(第一世代)させ、稼働時のHDDの発熱を約4度低下させた。(3)密封構造なため外部からHDDに悪影響を与える水分やガスの侵入を遮断出来、また発熱が低い事から平均故障時間を200万時間から250万時間へ延長出来る程信頼性が向上した。
 既にヘリウム密封型HDDは2,000万台の累積出荷実績を誇っている。


図1

図2