市村産業賞

第51回 市村産業賞 功績賞 -01

交通系ICカードに幅広く普及した低消費電力強誘電体メモリの開発と実用化

技術開発者 パナソニック セミコンダクターソリューションズ株式会社
半導体ビジネスユニット 事業開発センター
主幹 三河 巧
技術開発者 同社 同ユニット 同センター
主幹 吾妻 正道
技術開発者 パナソニック・タワージャズ セミコンダクター株式会社
最高執行責任者 長野 能久

開発業績の概要

1.開発の背景
 広く電子機器に組み込まれ、電源を切ってもデータが保持できる混載不揮発性メモリとしては、1990年代から、データ書換が電気的に可能なROMやフラッシュメモリが主流であった。一方で、動作電圧が高く消費電力も大きいという課題があり、低消費電力メモリの必要性が高まっていた。これらを原理的に解決できるのが、強誘電体材料の持つヒステリシス特性を利用し、低消費電力化が図れる不揮発性メモリFeRAM注)である。しかしながら、実用化には、材料の信頼性、製造時の課題、微細化という3つの技術的な大きな壁があった。

2.開発技術の概要
 これらの3 つの壁を克服するために、受賞者らは以下に示すキー技術(図1)を開発した。
 1) メモリ特性の材料レベルでの制御を可能にしたビスマス層状超格子構造のSBT注)系材料技術
 2) 強誘電体分極特性の劣化を防止する強誘電体プロセス集積化技術
 3) 水素による強誘電体膜の還元を防止する完全水素バリア被覆構造を採用した微細化技術
以上により、半導体製造や微細化で劣化させることなく、材料の持つ高いポテンシャルを引き出すことに成功した。最小加工ルール0.8μmで製造したFeRAMの量産を2000年に開始し、2003年には同0.18μmと、微細化を進めたFeRAMを世界で初めて量産した。

3.開発技術の特徴と効果
 受賞者らが開発したSBT系FeRAMの特徴は、高速(100ns以下)・低電圧駆動(2.0V以下)を実現したことであり、このFeRAMを内蔵したICカードは、有効範囲が広く、処理速度が速い通信を可能とした(図2)。これにより、複雑な乗り換えを必要とする都心の交通インフラでは、短時間かざすだけで、スムーズに改札ゲートを通過できるため、日本国内の交通系ICカードのコア半導体として広く普及している。

注) FeRAM (Ferroelectric Random Access Memory), SBT (Strontium Bismuth Tantalum)


図1

図2