市村産業賞

第56回 市村産業賞 貢献賞 -01

構造色による発色機構をもつ歯科用修復材料

技術開発者 株式会社 トクヤマデンタル 鹿島工場
主席 秋積 宏伸
技術開発者 同社 つくば研究所
主席 森ア 宏
技術開発者 同社 同研究所
主任 松尾 拓馬
推  薦 一般社団法人 日本化学工業協会

開発業績の概要

1.開発の背景
 歯科用修復材料である歯科充填用コンポジットレジン(CR)は、歯の欠損部を修復するための材料であり、世界の歯科医院で日常的に使用されている。天然歯の色調は個体差があるため、歯科医師は様々な色調のCRを在庫として管理し、患者の歯の色に合わせた色調を選択して使用している。すなわち、天然歯に対して適切な色調を選択する作業は臨床における負担であった。このような背景にあって、従来よりも色調適合性をさらに向上させ、誰でも簡単かつ審美的に修復できるような技術開発が求められていた。

2.開発技術の概要
 CRは重合性モノマー、無機充填材および重合開始剤等を含むペースト状組成物である。本開発技術は、無機充填材として配合される球状フィラーの粒子径(粒子間距離)に依存して発現する構造色を天然歯の色調再現に応用することで、従来技術(顔料の配合による色調調整)では達成し得なかったレベルの色調適合範囲を示すことを見出し、1色で基本的な天然歯の全ての色調を再現できるCRとして実用化した。

3.開発技術の特徴と効果
 粒子径を260nmに制御した球状フィラーは天然歯の色調である黄〜赤色の構造色を示す(図1)。構造色は光の干渉により生じる現象であるため、白背景下では背景色の反射光により特定の干渉光が認識されにくくなり無色に見えるが、黒背景下では特定の波長の干渉光が認識されやすくなる。つまり、白く明るい色調の天然歯に対しては白色で、暗く色調の濃い天然歯に対しては天然歯に近い黄〜赤色の発色を示すことにより、幅広い色調の天然歯に対して適合する(図2)。本技術を応用したCRは、歯の修復治療における色選択工程および在庫管理をシンプルにできるという価値を提供しており、全世界での展開を進めている。

図1

図1