市村地球環境学術賞

第56回 市村地球環境学術賞 貢献賞 -02

多様な廃棄油をバイオ液体燃料に変換可能な革新的製造プロセス

技術研究者 東北大学 大学院工学研究科
教授 北川 尚美
技術研究者 同大学 同研究科
助教 廣森 浩祐
技術研究者 ファイトケミカルプロダクツ株式会社
代表取締役 加藤 牧子
推  薦 東北大学

研究業績の概要

 カーボンニュートラル実現には、世界最終エネルギー総消費量の1/3を占める運輸部門への再生可能エネルギー導入が必須である。特に、ジェット燃料の8倍の需要がありEV車に代替困難なディーゼル車へのバイオ燃料混合が有効で、世界では脂肪酸エステル(FAME)の導入が急増している(平均混合率4%)。一方、日本の混合率は0.03%と世界と全く異なる状況で、これは1997年(京都議定書)頃に廃食油からのFAME製造が流行したが、燃料の低品質化などの課題を環境適合性と経済性を両立する形で解決できなかったことに起因する。
 低品質燃料となる原因は、廃食油に含まれる脂肪酸(油脂分解物)のためで、エステル変換触媒のアルカリと反応し石鹸を生成、収率低下や分離阻害による副生物混入を引き起こす。前処理として酸触媒で脂肪酸をFAMEに変換すればよいが、触媒同士の中和や塩除去などコストや環境負荷が大きく非現実的なプロセスであった。固体触媒であれば解決できる見込みがあったが、実用的な固体アルカリ触媒が存在しなかった。
 受賞者らは、水処理用分離剤であるイオン交換樹脂が油中で高いエステル合成能を発現、同時に水溶性の副生物を物理吸着するため、逆反応による制約なしに完全転化率を達成できることを見出した。また、油にビタミンEやポリフェノール類などの機能性成分が含まれると、イオン交換による競争的な吸着で選択的に高純度回収できる新たな分離原理も発見した。本反応分離技術により、油脂製造時に30%程度発生し利用できていない廃棄油を新たな原料とし、機能性素材を製品化しつつ残りを全てFAMEに変換できる革新的な製造法(図1)を創出した。製造工程での環境負荷を95%削減、生産性を20倍向上、国内でも数百
 億円規模の機能性素材による価値を生み出せる。2018年に大学発ベンチャーを起業、従来の既存プロセスに合わせて原料の前処理を追加して負荷を増大させる考え方ではなく、新たなコンセプトで多様な油組成に合わせてプロセスを自在に設計する手法を確立、国内外から多くの導入希望があり、普及を進めている。

図1