SiCパワー半導体デバイスは現在主流のSi系と比べて省エネルギーなどの観点から多くの利点を有し、次世代デバイスとして脚光を浴びている。ただ現在の製造プロセスでは層間絶縁膜を形成する工程で800〜1000℃の高温アニールを必要とするため、ゲート/チャネル界面で反応・乱れが生じてしまい、SiC本来の特性が十分に引き出せていない点が大きな問題となっている。
本課題ではポリシラザンなどの前駆体を基板表面に塗布し加水分解した後、300〜400℃で高密度水素ラジカル処理を行うことで、欠陥となる膜中の水素を除去し緻密なSiO2層間絶縁膜を形成する新技術を確立する。そのためにマイクロ波を発振器から導波管を通さず直接サンプルチャンバーに導入し、そこで定在波を立てて水素ガスを高効率でラジカル化し、6インチ径のウエハーに均一に照射することを可能とする装置を開発する。この独自の設計により整合器を必要とせず、投入電力が有効に利用できるため、類似装置の1000倍以上の高密度水素ラジカルを発生させることが可能となる。本プロセスの処理温度は現行技術より数百度低いため、問題となっているゲート酸化物/下層半導体界面での反応を抑え、良質な層間絶縁膜の形成が可能となる。これによりSiC系デバイス本来の特性、信頼性が実現されると期待される。
本技術開発により良質の層間絶縁膜を低温で形成する技術が確立されれば、SiCパワーデバイスの性能が向上し、電力の効率的利用につながることに加えて、基板製造コストの2〜3割削減も期待でき、SiCパワーデバイスの普及が促進されると期待される。
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