現在、電子部品を始めとする高機能ナノもの作りにおいて、薄膜の果たす役割はきわめて大きいが、DLC等の硬質薄膜やICウェハで用いられる超薄膜、多層膜などの高性能薄膜に対応した「強さ」を測る方法には良いものがなかった。
本開発の中核となるMSE(Micro Slurry-Jet Erosion)試験法は、微小硬質粒子を水とともに試験表面に衝突させ、その摩耗速度により、薄膜の摩耗強度や界面の強さを高精度に評価する方法である。図1は、その原理を示したもので、水と微粒子を混合したスラリーを圧縮空気で試料に投射し、その摩耗痕を精密に測定することで膜の特性を評価する。図2は、これまでの計測結果で、横軸は投射したスラリーの量、縦軸は摩耗痕の深さを示す。特に、HSS材にTiN硬質コーティングしたものでは、表面にあるTiNコーティング材は摩耗の進展は遅いが、その膜を終えHSS材料となると急速に摩耗が進む様子がわかる。しかも、それぞれの層内ではスラリー量と摩耗量とは極めて良好な線形的関係を示している。
本技術開発では、従来よりさらに小さい0.5mm角ノズルを用いることで、高速・高分解能化を目指すとともに、摩耗痕生成部と計測部とを物質的、振動的分離を果たしながらも、計測の信頼性を失わないシステム開発を目的とする。
本装置が開発されれば、自動車エンジン等の摩擦摩耗の低減や切削工具の長寿命化、また、半導体に用いる薄膜のCMP研磨等の耐性向上のための評価装置として活用されることが期待される。日本発の計測技術としてもその価値は高いものと考える。


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