独自のレーザ光源技術が結実、新材料の機能性解明に貢献
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光電子分光で世界初の分析技術を目指す |
■連続波レーザが新機能材料を解明 | |
近年、フラーレン、グラフェン、トポロジカル絶縁体など、新機能材料の発見が相次ぎ、それに伴い注目されるのが、光電子分光である。光電子分光とは、特定のエネルギーを持つ電磁波を物質に当て、出てきた電子を観測して物質中の電子状態を明らかにする手法で、新材料の発見と機能性の解明には必須のツールになりつつある。これまで主に用いられてきた光源は深紫外のパルスレーザだったが、光が物質にあたった瞬間に多数の光電子が発生し、観測に悪影響を与えることが明らかになった。オキサイドは、この分野で大学との共同研究を行なってきており、より高精度かつ高感度に安定的な測定を実現すべく、最適な光源の探索を続けてきた。そして、第一人者である大学研究者からの助言もあり、たどり着いたものが連続波レーザだった。
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■新たな光電子分光装置の要求性能 | |
大学との共同研究ではまず、産業用途の実用性ではなく、世界初の新たな分析技術の完成を目指した。開発陣は光電子分光で得られるデータには、世の中を変える大きな可能性を感じていた。これまでにもオキサイドは、数々の企業から技術を継承し、自分たちで洗練しながら事業化してきた歴史がある。同様に、新たな光電子分光装置で実現する性能は、今後の材料開発や分析機器分野を牽引し、高度化するものでありたい。検討の結果、213nmの連続光を長時間安定して出力する光源に加えて、実験の自由度を高める可搬性や互換性も目指すこととした。
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レーザ製品で培った技術が213nm連続光レーザに結実 |
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■213nmの連続光レーザを実現する3要素 | ||
技術開発には3つの要素が柱になった。まず、基本波には852nmのLD(レーザダイオード)を光源に用いた。LDは固体レーザにくらべ波長選択性に優れ、高出力化も容易である。加えて、ドライブ電流や温度を精密にコントロールして波長変換を行うことで、安定的な高エネルギーを持った213nmの連続波深紫外光が得られる。「私たちはこの時すでに266nmのレーザを製品化していましたが、213nmでは安定な出力が得られていませんでした。そこで、ほぼすべてのパーツ仕様を新規に設定し直す必要がありました」と、開発陣は当時の苦労を振り返る。
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■蓄積した光源技術が結実 | ||
次にキーとなる要素が「共振器波長変換技術」である。LDから出力された852nm光は半導体増幅器で増幅され、波長変換共振器を通り、2段階の波長変換を経ることで、852mmから426nm, 213nmへと高効率に変換される。この時、共振器内で基本波光を共振させ、高い光電界を実現するのが、4枚の共振器ミラーとそれらに追従し制御する独自技術の変換装置だ。さらに、426nmから213nmへの紫外域の変換時には、変換素子として「高品質BBO(ベータバリウムボレート)結晶」を使用した。通常、波長変換の際に用いる光学素子は、使用と共に劣化が進む。この傾向は短波長・高エネルギーになるほど顕著になり、変換効率が下がってしまう。そこで、開発陣は深紫外光に最適化され、不純物が少なく、端面のダメージを抑えたBBO結晶を独自に開発し、長期の安定性を高めることに成功した。これら2つの新技術は、いずれもオキサイドが266nmのレーザ製品で培った光源技術である。常に研究と刷新を怠らず、工夫に改良を重ねた技術が結実する様は、同社の真骨頂と言える。
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材料開発の高度化で、産業界の未来への貢献 |
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■他の追随を許さない光電子分光装置が完成 | |
オキサイドが開発した213nmの連続波深紫外レーザは、光電子分光装置用途として、2022年にリリースされた。これは、それまで用いられてきた114nmのパルスレーザ光と比較すると1000倍以上もの高効率、かつ高分解能の解析結果が得られる。また、連続運転時間の面でも10mWの出力で300時間以上を達成しており、国内外を含めて他の追随を許さない。その結果、従来装置では数日かかった解析実験が、飛躍的に時間短縮できる上、材料開発を大幅に加速する分析技術の高度化にも期待がかかる。
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■競争力を維持し、社会に貢献する | |
加えて、連続波の深紫外レーザ光源は、深紫外光を用いるイメージングや半導体検査分野などにも転用が可能だ。将来的に最先端の光電子分光装置が、研究開発用途から一般の製品管理領域に展開すれば、産業界の発展にも多大な恩恵をもたらすだろう。「私たちはよくA&D(Acquisition & Development)と呼んでいますが、元々ある技術を取得・開発して事業化することがオキサイドの手法です。この研究開発でいえば、レーザ光源技術に隠れがちですが、実は波長変換を行う結晶生成技術こそが競争力の源泉です。今後もそこを差別化要因に、創業時から変わらない『開発成果による社会貢献』を達成したいのです」と、開発陣は思いを語った。 ( 取材日 令和5年2月21日 神奈川県横浜市・(株)オキサイド )
(株)オキサイドプロフィール 国立研究開発法人物質・材料研究機構発のベンチャー企業として2000年に創業。主力は、21世紀の光の時代に必要不可欠な単結晶・光部品・レーザ光源・光計測装置の開発・製造・販売で、「新領域」、「半導体」、「ヘルスケア」の3つの事業を展開。単結晶・光学関連の専門家・技術者が多数在籍する研究開発型の事業会社として成長している。従業員約260名。 |