植物研究助成 20-04
植物研究園における樹木の成長特性を考慮した景観シミュレーション
代表研究者 |
大阪府立大学 大学院生命環境科学研究科 准教授 中村 彰宏 |
【 背景 】 |
日本庭園では、景観構成上、重要な要素である樹木を対象にした多くの管理がなされ、高木では成長抑制のために剪定等が行われる。しかし、わずかながらの成長が蓄積されて大きく成長し、中景〜遠景が樹木によって遮断されてしまい、作庭当時と大きく景観が変化してしまった庭園が多く存在する。それゆえ、樹木の剪定や伐採によって景観改善を図るべきだが、どの程度管理すればよいかといった一般解はない。
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【 目的 】 |
そこで、本研究は、樹木が重要な景観要素となっている庭園を対象に、樹木の成長特性を考慮して、樹木によって占められる景観の時間変化を明らかにし、どのような年代の景観に戻せばよいか、つまり、管理によって維持すべき樹木の大きさや密度を明らかにすることを目的に景観シミュレーションを行う。また、景観を構成する樹木群(樹冠群)や地面、空などの各構成要素が、人間の視野内で占める割合とする視野率を求め、これらが経年的にどのように変化してきたかを明らかにし、それぞれの視野率がどのような値で景観が美しく見えるか、といった景観の定量的評価も試みる。
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【 方法 】 |
研究対象地は植物研究園とし、園内の3次元計測を、地上設置型レーザスキャナで行う。樹木の成長量推定には、直径1mmの針を幹に挿入し早材と晩材の堅さの違いを検知するデジタルマイクロプローブを用いて園内に生育するヒノキ等の高木の年輪幅変化を測定する。この肥大成長速度から樹高変化を推定し、樹冠成長の3次元データを作成、景観シミュレーションによって景観の経時変化を明らかにする。園内の3次元データを地面、構造物、樹木群等に分類し、任意の視点で任意の方向を見た場合の画像を作成し、視野内における各構成要素の占める視野率を算出する。面積率だけでなく、各構成要素までの距離のヒストグラムも作成し、奥行きのデータも用いて景観を定量的に評価する。
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【 期待される成果 】 |
実測した植物研究園の3次元データを用いて、樹高を変化させた成長モデルによって再現性の高い景観変化を任意の視点から行えるようになる。本研究では樹木の成長速度を考慮した景観シミュレーションを行うために、ある時間でどれほどの景観が遮蔽されるか、また、視野率がどれくらい変化するかといった定量的な評価が可能となる。また、京都市内の庭園でも同様の調査を行い、景観の美しさを定量的に評価できる視野率や距離ヒストグラムを求め、樹木管理への貢献だけでなく、景観評価に関する研究の発展に大きく貢献でき、植物群落のもつ機能の定量的評価が可能となる。
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