
植物研究助成 20-08
植物に共生する微生物を利用した環境低負荷型生物農薬に関する研究
代表研究者 | 大阪大学 生物工学国際交流センター 助教 木谷 茂 |
【 背景 】 |
収量・品質を追求する化学農薬の濫用は、人間にとり有害な薬剤耐性菌を発生させるだけでなく、植物生長に必要な微生物までをも殺し、環境生態系を著しく乱すことが明らかになっている。この弊害を正すため化学農薬に代わる次世代型農薬として、植物の生長を促進する、または病害を防ぐ「生物農薬」の開発が必要である。自然環境から見つけ出す生物農薬は、生態系への負荷が少なく、環境にやさしいという優れた特徴を持つが、従来、土壌より分離した微生物が生物農薬として開発されてきたため、植物への定着性が悪いという大きな欠点を持つ。そこで、生物農薬の新たな分離源として、植物に関心が集まっている。無菌状態で育てた野菜が極めて不健康になることから明らかなように、植物内に共生する微生物は植物にとって必須の存在であり、これを利用すれば、定着率の問題を克服し、実用的な生物農薬の開発につながると考えられる。 |
【 目的 】 |
個々の植物種は、各々固有の共生微生物群を持つため、550種以上の樹木と200種以上の草花が集まる植物研究園は、生物農薬の基となる共生微生物の分離源として最適な環境である。本申請では、植物研究園の植物から共生微生物を分離し、その植物生長促進作用と抗病害作用を解析することにより、生物農薬としての評価を行うと共に、作用物質を同定し、環境低負荷型農薬への途を拓くことを目的とする。 |
【 方法 】 |
植物に共生する微生物群は季節により変動する可能性があるため、春、夏、初冬の3回に分けて、植物を採取する。植物片から我々が独自開発した手法により共生微生物を分離し、植物の根の伸長を指標にしたバイオアッセイにより植物生長促進物質を生産する微生物を、また植物病原菌の生育阻害を指標とするバイオアッセイにより抗病原菌物質を生産する微生物を同定する。有望株の微生物学的特徴を明らかにするため、遺伝子配列解析と至適生育温度などの生物学的特性を決定する。また、活性物質の情報を得るため、分離株の培養抽出液を精製し、活性物質の化学構造を種々の分析により同定する。 |
【 期待される成果 】 |
環境生態系を乱さない、すなわち環境低負荷型の生物農薬となる微生物を、植物に共生する微生物から探索することは、実用的な生物農薬の開発を可能にする。本研究において、植物の育成を助ける微生物または活性物質を同定すれば、今までにない環境にやさしい農作物・花卉の栽培法の確立に大いに貢献することができる。さらに植物に由来する微生物を使用するため、化学農薬とは異なり農作業現場で安全に活用されることが期待される。 |