植物研究助成

植物研究助成 20-11

伊豆半島に分布するヒツジグサの遺伝的多様性と独自性の解析

代表研究者 金沢大学 理工研究域自然システム学系
講師 山田 敏弘

背景

 ヒツジグサは、スイレン科の多年生草本で、かつては日本各地の湿地や沼などに広く分布した。しかし近年、生育地が近年急速に減少し、静岡県を含む多くの県で絶滅が心配されている。私たちは最近、数集団のCURLY LEAF (CLF)遺伝子を予備的に解析し、集団間でかなりの多様性が見られることを初めて明らかにした。この結果は、地域集団の絶滅が、ヒツジグサ種内の遺伝的多様性に深刻なダメージを与えることを暗示する。従って、その遺伝的多様性を把握することが、種保全の対策を打ち出すために、急務となっている。また、個体数の少ない集団や希少な遺伝子型を持つ集団については保護の必要があるが、効率的な株の増殖方法は確立されていない。

目的

 本研究では、伊豆半島周辺のヒツジグサの遺伝的独自性を明らかにするため、核コードのCLF遺伝子多型を解析し、他地域の集団と比較する。また、伊豆半島内での遺伝的多様性を解明する。さらには、SWINGER (SWN)遺伝子に見られる多型マーカーの開発を行い、CLFと同様にヒツジグサの遺伝的多様性の把握に用いる。これらの結果から、希少な遺伝子型(地域に固有なものなど)を持つ集団を推定し、保護の指針を示す。同時に、根茎、胚などの一部から、カルスを経て個体を再生させる系を確立し、希少集団のクローンによる増殖に寄与する。

方法

 本研究では、熱海周辺および他地域(主に北陸周辺)の集団から採集したヒツジグサ個体からPCRによりCLF遺伝子を増幅し、ダイレクトシーケンスにより、その配列を決定する。また、SWN遺伝子のすべての遺伝子座の配列をゲノムサザンおよびサザン産物のシーケンシングにより決定し、特定の遺伝子座を増幅するプライマーを設計する。このプライマーによりCLFと同様に遺伝的多様性を解析する。一方,再生系を確立するため、カルス誘導、シュート/根形成誘導に最適なサイトカイニン、オーキシン濃度の検討を行う。

期待される成果

 本研究の結果、伊豆のヒツジグサに見られる遺伝的独自性と多様性が初めて明らかとなり、その保全のための基礎情報が整備される。また、培養により株分けすることが可能となり、希少な遺伝子型を持つ個体のクローンを増殖できる。ヒツジグサは沼や湿地などの孤立した環境にしか生育しないため、周囲の集団との遺伝的交流が阻害されている可能性がある。本研究は、ヒツジグサにおける遺伝子交流の実体を明らかにし、「どのくらいの範囲を一括して保護すべきか」など、同様な環境に生育する植物の保全についての指針を示すだろう。