
植物研究助成 20-12
ニホンジカが伊豆半島の自然植生に与える影響の実態解明
代表研究者 | 東京農工大学 農学部 准教授 星野 義延 |
【 背景 】 |
ニホンジカの生息密度の増加や分布拡大による自然植生への影響が全国から報告されるようになっている。伊豆半島でもニホンジカの生息密度が増加し、自然植生に甚大かつ不可逆的な変化の進行が危惧されているが、ニホンジカが高密度化する前後で植生の変化を比較して、構造や種構成の変化を実証的に示した研究がないため、高密度化の自然植生に与えた影響については不明な部分が多く、その実態を解明する研究が急務となっている。 |
【 目的 】 |
ニホンジカの高密度化により自然植生が大きく変化したと推測される伊豆半島の自然林や自然性の高い植生を対象として、植物の種構成や階層構造をニホンジカが低密度であった1990年代後半と高密度化した後の現在の状態を比較し、この間の植生変化の実態を明らかにすることを目的とする。また、現在の植生状態とニホンジカ利用度との間の関連性についても明らかにする。 |
【 方法 】 |
1990年代後半に植物社会学的な方法を用いて調査を行った伊豆半島の高標高域のブナ林、低木林を対象として過去に調査した調査地点において、植物社会学的な植生のモニタリング調査を行う。また、これと同時にニホンジカの利用度の指標として、シカの糞粒数のカウントを実施し、採食痕やシカ道の有無などを記録する。得られた結果を1990年代後半の資料と比較し、顕著に減少した植物や増加した植物の特定など、この間の植生変化の実態を解明するとともに、減少種・増加種の生態学的な特徴について解析する。さらに、既存研究のある他地域での結果と比較検討することで、伊豆半島でのニホンジカの植生影響の特徴について考察する。 |
【 期待される成果 】 |
本研究の成果により、伊豆半島におけるニホンジカの植生への影響がどのような傾向、規模、強度であるかを2時期のデータに基づいて実証的に明らかにすることができる。さらに、ニホンジカの採食、樹皮はぎなどによって生じた植生の変質の程度から、植生の脆弱性を評価することも可能である。これらの研究成果は変質した植生の修復、復元にむけた基礎的で科学的なデータを提供することとなり、日本におけるニホンジカの植生影響の実態解明に貢献するものと考える。 |