植物研究助成

植物研究助成 20-15

バイオスペックルを用いた光断層画像法による植物の環境ストレスモニタリング

代表研究者 埼玉大学 大学院理工学研究科
助教 Violeta D. Madjarova

背景

 近年の急速な工業の発展により、大気汚染、水質汚染、土壌汚染など人間を含む動植物を取り巻く環境は著しく悪化している。したがって、環境が生物の生長あるいは内部活性に与える影響を正確に計測する技術の確立が望まれる。従来の生化学的な分析法では、植物体や一部の組織を採取するなど侵襲型の分析が主としておこなわれてきた。このような手法はその場での環境ストレスに対する植物応答の実時間測定はできない。加えて、1個体の長期間にわたる環境応答の観測も困難である。

目的

 生体をレーザー光で照射すると、ランダムな散乱光の干渉によりスペックルパターンと呼ばれるランダムなパターンが生成される。このとき、生体内部の散乱物質の運動を反映してスペックルパターンもランダムに変動する。これをバイオスペックルと呼び、生体の活性状態を計測することができる。本研究では、植物の根や葉などの内部の複数の部位から発生するバイオスペックルを利用する機能的OCT断層画像法を開発することにより、無侵襲かつ高感度に光化学オキシダントなど大気汚染物質や塩や酸性雨などによる土壌汚染に対する総合的な植物の環境ストレスモニタリングおよび植物を通した環境センシングをおこなう技術を開発する。

方法

 本研究では申請者がこれまで提案してきたバイオスペックルOCT計測システムをさらに発展させることにより、散乱および減衰係数の大きな植物体に対して十分な断層計測ができるよう改良をおこない、これまで観察が困難であった根に対しても適用性を検証する。土壌汚染が直接作用する根および汚染物質が輸送される葉など複数の部位に対して観測を行い、植物の環境ストレスを総合的にモニタする手法を開発する。土壌汚染物質として塩や酸性雨により顕著となるアルミニウムに注目し、特異的に反応する部位からのみのバイオスペックル信号の抽出を試みる。

期待される成果

 従来のOCT技術は主として人や動物に適用され、単に生体の解剖学的な断層画像のみが観察可能である。それに対して、提案する手法はバイオスペックルに注目した機能OCTを実現し、植物の活性度を断層画像として取得している点で従来にない新規な植物計測を可能にするものである。これは、機能的OCTと呼ばれる新しい世代のOCT技術である。具体的な応用として、環境汚染に対するバイオセンサーや最近注目されている植物栽培工場における、最適栽培条件の制御および収量の最適化に応用可能である。