
植物研究助成 20-19
木部液組成を単一道管レベルで測定する装置の開発
代表研究者 | 東京大学 大学院理学系研究科 特任助教 種子田 春彦 |
【 背景 】 |
乾燥ストレスに曝された植物では、茎の道管が空気で満たされて水輸送が阻害される現象(木部閉塞)が起きる。生育環境の水分条件が改善された後で植物が再び生長を回復するためには、木部閉塞を起こした道管に水を再充填して水輸送機能を回復させる必要がある。したがって、道管への水の再充填能力は乾燥ストレスへの適応戦略を考える上で非常に重要であり、生態学的にも、乾燥耐性の品種の選抜のためにも再充填能力の定量化が望まれる。近年、多くの木本植物において、茎圧によって生じる陽圧が、茎の道管への水の再充填に不可欠であることがわかってきた。茎圧の発生には、能動的なショ糖の輸送を伴う浸透的な圧力の関与が示唆されており、再充填能力の定量化には木部液の組成の正確な測定が必要となる。 |
【 目的 】 |
従来は茎の木部全体からの木部液回収で、極めて薄い浸透濃度しか検出されていない。木部閉塞と水の再充填は個々の道管で独立に起きるが、茎の木部は数多くの道管を含むため、従来の回収方法では、道管ごとの違いを平均化してしまい、木部液濃度を過小評価している恐れがある。本研究は,単一の道管内に溶液をかん流できる装置を作製し、木部閉塞を起こした道管に特化して木部液を回収することで、木部液濃度や再充填能力を正確に定量することを目指す。 |
【 方法 】 |
単一の道管で操作を行うために、先端を細くしたキャピラリーを茎の道管に挿入し接着剤で固定する。このキャピラリーに、流量計、水源、空気の高圧ボンベや減圧ポンプをつなぐことで、圧力を掛けて外部から溶液や空気を道管へかん流できる、または内部の木部液を回収できるようにする。道管に空気を流して人工的に木部閉塞を起こさせ、その後、道管へ充填された木部液の量と組成をHPLCによって測定して再充填能力を定量化する。また、再充填能力の最大値を求めるために H+-ATPaseを活性化させるフシコクシンを流したときの値も測定する。これらの測定を太い道管を持つ、つる植物のクズ(草本)、ブドウ(落葉樹)、キヅタ(常緑樹)で行い、再充填能力を比較する。 |
【 期待される成果 】 |
本研究は、再充填中の道管に特化して木部液の組成を正確に測定する装置を開発することにより、様々な種で茎圧による再充填能力の定量化が可能になる。また、定量化された結果は、これまで無視されてきた「木部閉塞から再充填させて道管を維持するためのエネルギーコスト」の推定を可能にする。これは、植物の水輸送におけるコスト-ベネフィット関係を明らかにし、道管の形状や使用年数など、木部の形態の適応と進化に関する根本的な問題の解決につながる。 |