植物研究助成

植物研究助成 29-09

ハイパースペクトルカメラを用いた菌核菌病感染植物の早期検出

代表研究者 東北大学 大学院生命科学研究科
日本学術振興会特別研究員(RPD) 上妻 馨梨

背景

 菌核病は糸状菌(カビ)の一種である菌核菌(Sclerotinia sclerotiorum)による植物への伝染性の病害であり、樹木、作物など100種類以上の植物に感染し、林業や農業での生産低下の原因になっている。感染後菌糸が形成されてからの薬剤散布では手遅れであり、治療効果のある薬剤がないことから感染部位を早期に特定し除去することが、感染拡大の抑制に有効な対策と考えられている。しかし、広大な森林や農場において感染を早期に特定することは容易ではない。そのため、広い範囲における植物の病害感染を即座に選別するリモートセンシング技術の開発が求められる。菌核菌が植物へ感染すると光合成色素であるキサントフィル類の構成が変化することが報告されている。一方で、最近、申請者のグループは531nm付近の反射光を用いた指標である光化学反射指数PRI (Photochemical Reflectance Index)が同色素の構成変化を検出していることを生理学的検証から明らかにした。本研究では、PRIシグナルによる植物の病害センシング法を提案し、検証する。

目的

 植物への菌核菌の感染を早期発見し拡散を防ぐためには、広範囲における植物の病害応答変化をリモートセンシングし、可視情報として得ることが有効である。本研究では、ハイパースペクトルカメラ(分光波長組成を2次元で取得できるカメラ)を用いてPRIの変化を検出することで、植物の菌核病被害を可視化する技術を構築することを目標とする。

方法

 本研究では、植物への菌核菌の感染がPRIシグナルから検出できることを証明する。第1に、実験室レベルにおいて、モデル植物であるシロイヌナズナの葉に菌溶液を滴下することで感染させ、PRIの変化をモニターし、感染速度や強度をイメージング情報として獲得する。第2に、菌核菌の被害による生産性低下が懸念されるトマトをターゲットにPRIイメージングによる病害検出を試みることで、将来的には、菌核病の被害が出ている農業現場での実証実験に繋げる。

期待される成果

 PRIイメージングを用いた病害検出は、農業現場において検出の労働コストの低減を可能にする。また、早期検出は感染拡大を最小限に抑えることから、収量増加に大きく寄与する。この手法をドローンスケールで行えば大規模農場や林業などでも活用できることから、本研究の成功は多大なインパクトを与えると期待される。