植物研究助成

植物研究助成 29-18

富士山地域の新種植物「フガクヤシャビシャク」の分布生態に関する研究

代表研究者 京都大学 大学院地球環境学堂
助教 阪口 翔太

背景

 日本の植物区系のなかで伊豆・富士山地域の植物相は独特で、フォッサマグナ地区として区別されている。これまで植物分類学・区系学の観点からフォッサマグナ要素が研究されてきたが、その多様性の全容解明には至っていない。その一例として申請者は、富士山麓にみられる着生性低木・ヤシャビシャク(スグリ科)の個体群が、他地域から系統的にかけ離れていることを発見した。形態的に見ても、萼片が淡紅色を帯びる・長枝に鈎爪状の毛を生じる・葉の鋸歯が深く湾入するなど、他地域個体群に見られない特徴をもつ。このような予備的観察から、本植物を「フガクヤシャビシャク」として新種記載すべきと考えている。しかし本種の正確な分布範囲や、ヤシャビシャクとの遺伝的交流については情報が不足しており、現地調査・遺伝分析に基づいて解明する必要がある。

目的

 本研究では、フォッサマグナ地区の固有種と考えられる未記載植物「フガクヤシャビシャク」の地理的分布範囲とヤシャビシャクとの間の遺伝的交流の有無を調査したうえで、新分類群として学術記載することを目的とする。

方法

 フガクヤシャビシャクは富士山麓で初めて確認されたが、フォッサマグナ地区内での分布範囲は未詳である。そこで周辺の愛鷹山・箱根山・伊豆半島のブナ林を訪れて、本種の分布調査を行う。加えて、標本庫に収蔵されている標本を再検討し、フガクヤシャビシャクに該当するものがないか調べる。また2種が同所分布する場所で種間の遺伝的交流があるかどうかを遺伝分析によって調べる。分析には、核ゲノム全体を対象としたMIGseq法、および葉緑体(trnH-psbA領域)のシークエンス解析を行う。交雑現象が起こっている場合、同所個体群で核ゲノムとの不一致が生じやすいため、その点に着目して交雑可能性を検証する。

期待される成果

 古くから綿密な植物調査が行われてきた日本本土では、新種の樹木が発見されることはほとんどない。そのなかでフォッサマグナ地区からフガクヤシャビシャクを記載できれば、本邦の植物多様性の解明に大きな貢献ができる。また、静岡県産のヤシャビシャクは絶滅危惧II類に指定されているが、その一部の実体がフガクヤシャビシャクであることが示された場合、静岡県における本グループの保全評価を再検討する機会になると期待される。