地球環境研究助成

地球環境研究助成03-03

再生可能エネルギーを活用した腐食しない卑金属電極によるPEM型水電解に関する研究

代表研究者
筑波大学数理物質系・准教授
伊藤 良一

研究目的

 再生可能エネルギーと組み合わせた水電解法の一つである固体高分子形(PEM)水電解は環境に優しい次世代水素製造法として期待されている。本研究は、非貴金属化によりPEM型水電解装置の低価格化を狙い、オンサイト方式の水素製造法を社会に普及させ、水素製造基盤技術への貢献を目指すために、PEM型水電解に適用可能な腐食しない卑金属電極の開発を行った。

研究方法

 高い化学的安定かつ触媒能力が優れた「高エントロピー合金(Ti, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Zr, Nb, Mo)」という新しい卑金属合金を用いて卑金属が本来持つ触媒能力を腐食させずに最大限発揮できる貴金属代替電極作製を行い、腐食測定、その場電気化学X線光電子分光法、3極式電気化学測定およびPEM水電解セルでの評価試験また第一原理を用いたシミュレーション計算を通じてその触媒性能や電極劣化メカニズムなどを詳細に調査した。

研究成果

 上記の実験結果の解析から、各元素の役割と複雑に絡み合った合金に現れる相乗効果を考えることで、9元合金が高い触媒能力を持つ理由についての起源を読み解くことができた。まず、各元素の役割をまとめると、酸素発生に優位な触媒活性サイトはFe, CoとNiであり(FeとMnは触媒サイトのサポート役)、Ti, Zr, NbとMoが不働態の役割である、と分類できた。また、本研究用途に適合した電解液に含侵させることで、5元合金の成分であるCr, Mn, Fe, CoとNiが表面から溶けだし、4元合金の成分であるNb, Zr, MoとTiが不働態膜を形成し、不働態膜完成と共に更なる腐食の進行を防いだ。この9元合金の表面状態は、4元合金とほぼ同等の表面構造であると考える。その後、触媒反応に必要な外因(今回は電圧)を加えることで、触媒反応に都合の良い自己再構成(CoとNiが表面へ偏析)を起こしていることが明らかとなり、4元合金でも5元合金でもなし得なかった相乗効果が9元合金で発揮されていることが明らかとなった。

まとめ

 触媒活性な元素と不働態になりやすい元素を合金化することで、それらが相乗効果を起こし、協奏しながら触媒と防食の役割を担っている系が存在していることを明確にした。

地球環境保全・温暖化防止への貢献

 水素製造装置が安易になれば一般家庭にも普及が進み、ソーラーパネルを設置した一般家庭で水素製造が可能となる。つまり、自然から得られる電気エネルギー(太陽電池)を各世帯で水素に変換する(水電解)ことで「エネルギーの貯蓄」を行い、自宅にある燃料電池車などに必要に応じて「エネルギー供給」することで、家庭から地球温暖化防止に役立つことが可能である。

主な成果発表

(1) Aimi A. H. Tajuddin et al., Corrosion-resistant and high-entropic non-noble-metal electrodes for oxygen evolution in acidic media, Adv. Mater., 2023, 35, 2207466.