酸化亜鉛(ZnO)は、化粧品の白色顔料に使われる化成品であり、電子部品としては透明導電膜、バリスター、ガスセンサーなどに応用されている。一方で、バンドギャップが3.3eVと広い、透明な半導体でもある。受賞者は、ZnOの半導体としての機能に着目し、10年以上にわたってその薄膜作成技術を高度化してきた。その結果、酸化亜鉛のpn接合による紫外発光ダイオードの開発と、シート状に電子を閉じ込めた2次元電子ガスにおける量子ホール効果の観測に、いずれも世界で初めて成功した。この背景には、ZnOに酸化マグネシウム(MgO)を固溶した(MgZn)Oの発明によるバンドギャプのさらなるワイド化と、(MgZn)O/ZnOのヘテロ接合技術の確立がある。
ZnOは天然には電子が多いn型の性質を示す。受賞者は、薄膜結晶の高品質化によりn型の性質を極限まで弱め、さらに窒素をわずかに加えることで正孔が多いp型の性質を実現した。さらに(MgZn)Oを用いたヘテロ接合紫外発光ダイオードの開発に成功した。紫外発光ダイオードと蛍光体を用いた白色発光ダイオードは、電球の1/10、蛍光灯の1/2の消費電力で同様の明るさを実現でき、将来の照明に用いられると期待されている。窒化ガリウムによる発光ダイオードが実用化では先行しているが、演色性、コスト、大型基板などで問題があり、それらの面で優れているZnO系材料の実用化が期待されている。
一方で、受賞者は、透明な性質を利用して透明トランジスタの開発にも成功している。上記のn型の性質を極限まで弱める研究の中で、電子の流れやすさの指標である移動度の向上に成功し、酸化物の中では最も移動度が大きい20,000cm2/Vsを達成した。ZnOは押すと発電する圧電結晶であるが、(MgZn)O/ZnO界面ではその性質にわずかな差異があり、その差異に相当する量の電子が自発的に蓄積され2次元に閉じ込められることを発見した。低温・強磁場中では、電子が円運動をするが、1周の軌道に波が整数回存在する状態のみが許される干渉効果が起きる。この量子ホール効果を酸化物で初めて実現した。この結果は、将来の透明エレクトロニクスを見据えた極限性能トランジスタの到達点を明示するものである。
図1 ZnO紫外発光ダイオードの写真
図2 ZnOトランジスタ(挿入写真)と量子ホール効果を示す磁気抵抗
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