市村学術賞

第42回 市村学術賞 貢献賞 -02

周期加熱法による熱特性計測技術の開発と先端材料評価技術への応用

技術研究者 独立行政法人 産業技術総合研究所 能力開発部門 人材開発企画室
室長 加藤 英幸
推  薦 独立行政法人 産業技術総合研究所

研究業績の概要

 産業技術の振興と環境問題の対策を両立する上で、省エネルギー技術の視点は欠かせない。その技術開発において、断熱材料や高伝熱材料の熱特性評価、先端材料の革新的利用における熱マネージメント技術の確立などに熱特性計測と材料評価は重要な役割を担っている。受賞者は周期加熱法による熱特性計測技術と材料評価手法の研究に一貫して携わり、企業と連携して実用計測装置の開発までを手掛けた。
 研究の端緒は、90年代の酸化物超電導体の材料評価に遡る。芥子粒大のY123単結晶微小試験片で熱的異方性を評価するために、従来法に代わる「レーザスポット周期加熱法」を考案した。強度変調されたレーザビームをスポット状に集光して試料を加熱し、その周期的温度変化を極細熱電対で測定する。これによりY123単結晶の単一試験片での3軸の熱的異方性評価に初めて成功した。
 「局所熱浸透率測定法」と「波長可変温度波伝搬分析法」の研究開発では、それぞれサーモリフレクタンス法と赤外放射測温法による非接触測温方式を採用し、加熱用光源にはいずれも内部変調可能な高出力半導体レーザを用いた。その結果、図1に示すように従来の標準的方法に比べて測定対象が大幅に拡がった。薄いシートや薄膜の評価も可能となり、高分子系低熱伝導材料から炭素系高伝熱材料までカバーする幅広い測定ダイナミックレンジを実現した。これらの装置は、図2に示すように、YBCO超電導薄膜の熱浸透率の分布評価やYBCO超電導テープ線材の剥離欠陥検出などにも活用されており、従来の熱特性計測装置の枠を超えた材料評価の機能も付加されている。
 既に実用に供されている熱物性顕微鏡(Thermal Microscope)は『薄膜の評価や分布測定を可能とする』高性能ハイエンド機として、また製品化予定のThermoWave Analyzerは『材料を選ばず多様な評価を可能とする』汎用ミッドレンジ機として、ともに先端材料関連の産業技術競争力強化や省エネルギー技術開発を支える基盤的な計測評価ツールとして普及することが期待されている。
(注:Thermal Microscope、 ThermoWave Analyzerはともに株式会社ベテルの製品です)

図1 熱特性の測定対象領域の比較
図1 熱特性の測定対象領域の比較

図2 開発した技術・装置の応用例
図2 開発した技術・装置の応用例