市村学術賞

第42回 市村学術賞 貢献賞 -06

3次元テレビの実用化に向けた専用計算システムによる電子ホログラフィ

技術研究者

千葉大学 大学院工学研究科
教授 伊藤 智義

推  薦 千葉大学

研究業績の概要

 ホログラフィは3次元波面を忠実に記録・再生できる唯一知られた技術であり、究極の3次元映像技術であるといわれる。これをリアルタイムで電子的にデジタル処理できれば、3次元テレビの実用化など、映像及び可視化技術に大きな変革をもたらすことが予想・期待されている。このような技術は電子ホログラフィと呼ばれ、1990年頃から研究されてきている。しかし計算負荷が膨大であり、いまだに実用化が困難な状況にある。
 ホログラフィの情報処理は、膨大ではあるが、並列計算に向いている。受賞者はこの点に着目し、電子ホログラフィが研究され始めた初期の頃から、ホログラフィ計算を効率良く行う専用回路を超高並列で動作させるハードウェアの研究を行っている。HORN(HOlographic ReconstructioN)システムと名付けて試作を続け、最新のHORN-6では2万回路を並列動作させてパソコンの1万倍の高速化を実現した。10万点で構成される3次元物体のリアルタイム再生に成功し、HORNシステムが3次元テレビに向けての有力な技術の一つになり得ることを示した。
 一方で、専門知識がなくても扱える安価で手軽なシステムの研究も並行して行い、グラフィックスプロセッサ(GPU)の演算能力に早くから着目した。ホログラフィ計算がGPUで大きく加速され、CPUに比べて100倍以上の高速化が可能であることを示し、GPUを用いたポータブルなリアルタイム電子ホログラフィシステムの開発にも成功している。
 本研究成果をまとめたHORN-6の論文、GPUの論文とも、Optics Express誌(米国光学会:OSA)に掲載されると2ヶ月連続でOSA発行雑誌全体の月間ダウンロードランキング1位を記録し、受賞者の研究動向が世界的に高く注目されていることを示した。HORNシステムがハイエンドの成果を生み出し、GPUシステムがローエンドの研究可能性を示しており、将来の3次元テレビの実用化に向けて、当該研究分野の活性化に大きく貢献している。

図1 専用計算機を用いた電子ホログラフィシステム
図1 専用計算機を用いた電子ホログラフィシステム


図2 動画再生のスナップショット
図2 動画再生のスナップショット