市村学術賞

第43回 市村学術賞 功績賞 -02

セルロースナノファイバーを担体とした有用微生物培養技術の開発

技術研究者

独立行政法人海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域
チームリーダー 出口  茂

技術研究者

独立行政法人海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域
技術研究副主事 津留 美紀子

推  薦 独立行政法人海洋研究開発機構

研究業績の概要

 地球の生命圏を数の上で支配する微生物は、物質生産・分解に関する様々な能力を有しており、これらを活用した技術開発は大きな可能性を秘めている。近代微生物学の開祖と言われるRobert Kochは、19世紀末に、栄養素を含んだ寒天の表面で微生物が増殖し、目に見えるサイズの細胞塊(コロニー)を形成することを見出した。固体培養と呼ばれるこの手法が確立されたことで、目に見えない小さな生物の存在を容易に確認できるようになり、微生物に関する我々の理解は飛躍的に進歩した。有用微生物を利用した研究・開発においても、寒天を用いた固体培養は欠かすことの出来ない基盤技術である。
 20世紀に入って生物探査の範囲が広がり、従来無生物環境だと思われていた高温、強酸性、強アルカリ性などの環境にも、多くの微生物が棲息していることが明らかとなった。これらの発見により、遺伝子増幅技術や酵素洗剤など、新しいバイオテクノロジーが生み出された。しかしながら、寒天は高温などの極限環境下では溶解してしまうため、極限環境微生物の培養担体としては利用できないことが大きな障害となっていた。
 受賞者らは、材料科学という、微生物学とは全く異なる視点から微生物の培養技術に取り組み、結晶性セルロースからなる直径数十nm程度のナノファイバーが複雑に絡み合い数百nmの空孔を有する多孔質体を担体とした、有用微生物の全く新しい培養技術を開発した。セルロースナノファイバーの多孔質構造は、極限的な物理化学条件下でも安定に保たれるため、従来技術では困難であった、極限環境に生息する有用微生物の培養に広く利用できる。さらには、非食用バイオマスからの物質生産に資する有用微生物の培養にも適している。
 本研究成果は製品化されている。この技術によって、従来は培養が困難であった様々な有用微生物の能力が解明されると共に、それらを活用したイノベーションが創出され、二酸化炭素の排出量を低減し、自然と共生する持続可能な技術社会の実現に向けて大変重要な寄与をすると期待される。

図1
図1 ナノファイバーセルロース上の大腸菌

図2
図2 好熱性微生物の培養(左:セルロース、右:寒天)