市村学術賞

第46回 市村学術賞 貢献賞 -04

光・電磁波に応答するエコフレンドリーな新物質の創成

技術研究者 東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻
教 授  大越 慎一
推  薦 東京大学

研究業績の概要

 現代の電子機器や電子デバイス、磁気デバイスの材料は、希少な元素からできているものが多い。もし、ありふれた元素を用いて、その機能を代替できる物質あるいはそれを超える機能を備えた物質を開発できれば、自然環境を守りながら科学技術を発展させることができる。受賞者は、光誘起相転移や高周波電磁波吸収などの光・電磁波に応答するサスティナブルな先端機能物質の創出に関する研究を推進してきた。
 おしろいなどの白色顔料で知られている酸化チタンに受賞者は着目し、新種の酸化チタン(ラムダ型−五酸化三チタン,λ-Ti3O5)を発見した。この物質は、金属酸化物としては初めて室温で光誘起相転移を示した。λ-Ti3O5は10ナノメートルまで小さくすることができるため、高密度光記録材料への実用化が期待される。
 酸化鉄からなる磁石(いわゆるフェライト磁石)は、保磁力が小さいという弱みを持っている。受賞者は、赤錆や口紅などの赤色顔料で知られるFe2O3に注目し、巧みな化学的合成法を用いて、イプシロン型−酸化鉄(ε-Fe2O3)という相を単相で合成し、この物質が極めて大きな保磁力を示すことを発見した。この物質は、次世代磁気記録材料やレアアースフリーモーターなどへの応用の他、従来では不可能だったミリ波領域(30〜300 GHz)において電磁波吸収を幅広く制御できることを発見した。この材料は、次世代無線通信用の電磁波吸収体やアイソレーターなどへの展開が期待されており、多くの企業で試作品が製作されている。
 葛飾北斎の浮世絵の青色顔料として知られているプルシアンブルー顔料は、放射性セシウムを吸着することから、チェルノブイリ原発事故の際には、解毒剤としても用いられている。受賞者は、長年にわたりこの物質群を用いて、種々の物性(磁性、電気物性、光学物性)の研究を行ってきた。近年では、光を照射して非磁石を磁石にスイッチングする光磁性現象を見出し、磁場フリー光磁気記録といった新しい光磁気記録方式を提案している。

図1