市村学術賞

第49回 市村学術賞 貢献賞 -02

細胞治療を効率化する合成化合物

技術研究者 京都大学 物質−細胞統合システム拠点
教授 上杉 志成
推  薦 京都大学

研究業績の概要

 近未来、難病の再生・細胞治療が実現化すると予想される。本技術研究では、合成小分子化合物でヒト細胞の基本的性質を操作・検出して、再生・細胞治療の効率を高める技術を開発した。再生・細胞治療に有機合成化合物を使うという新しいコンセプトを提示した。具体的には以下の4つ。

(1) 細胞移植を効率化する化合物 細胞治療の大きな問題の一つに、移植効率の悪さがある。受賞者らは、化合物ライブラリーから細胞接着小分子化合物を発見し、その独特なメカニズムを利用して、細胞移植効率を高める化合物を開発した。
(2) 分化促進化合物 幹細胞治療では、iPS細胞やES細胞を十分に増殖させた後、有用な細胞に分化させる必要がある。受賞者らは、ヒト多能性幹細胞から心筋や膵β細胞への分化を促進する化合物を発見した。
(3) ヒト幹細胞可視化化合物 幹細胞治療の問題の一つに、残存多能性幹細胞による腫瘍形成がある。受賞者らはヒト多能性幹細胞(ES細胞やiPS細胞)に選択的な蛍光物質Kyoto Probe 1 (KP-1)を発見し、分化後に残存する多能性幹細胞の検出を簡便化した。
(4) ヒト幹細胞を除去する化合物 残存多能性幹細胞を除去できれば、幹細胞治療による腫瘍形成を軽減し、移植安全性をあげることができる。受賞者らは、ヒト幹細胞を選択的に死滅させる化合物を複数開発した。
 化合物の最大の利点は安価な大量生産性である。細胞治療の生産性や効果を安価な化合物で効率化できれば、細胞治療の高コストを軽減できると期待される。

図1