市村学術賞

第49回 市村学術賞 貢献賞 -05

原子核乾板を用いたミューオンラジオグラフィーの開拓

技術研究者 名古屋大学 大学院理学研究科
講師 中野 敏行
技術研究者 同大学 高等研究院/未来材料・システム研究所
特任助教 森島 邦博
推  薦 名古屋大学

研究業績の概要

 ミューオンラジオグラフィーとは、上空から飛来する宇宙線ミューオンを用いた、従来の技術では不可能であった、火山、ピラミッド、原子炉のような大型構造物の非破壊イメージング技術である(図1)。受賞者らは、ミューオンの検出器として原子核乾板を用いる手法を開発し、ミューオンラジオグラフィーの実証と実用化において顕著な成果を挙げてきた。
 原子核乾板は、宇宙線ミューオンのような高エネルギー荷電粒子を3次元的にサブミクロンの位置精度で記録出来る特殊な写真フィルムである。他の飛跡検出器に比べ、電源不要かつコンパクトであることから、設置可能な場所を飛躍的に拡げることができる。一方で乾板に記録された飛跡を読み出す時間が解析のボトルネックであり、ミューオンラジオグラフィーとって重要な項目である検出器の大面積化が困難であった。1990年代から素粒子実験などへの適用を主目的として、世界に先駆けて原子核乾板を高速に読み取るための装置の開発してきた。最新の装置(図2)では、はがきサイズの原子核乾板を5分程度で読み出すことを可能とし、解析速度を飛躍的に向上させた。これらの装置を用いて、福島第一原子力発電所二号機の炉心溶融状態の把握、エジプトのピラミッドの内部探査などを対象とした実用化を推進してきた。福島第一原子力発電所二号機においては、健全な五号機やモデルとの比較を行うことで炉心溶融を初めて確認し、核燃料残存量にして30%以下である事をつきとめた。また、エジプト政府主催のスキャンピラミッド計画に参加し、屈折ピラミッドにおいて玄室の検出を確認、さらにクフ王のピラミッドでは未知の構造を初めて検出した。本研究成果は、原子炉やピラミッドなどの考古学遺跡の他、火山などの地球科学的対象を始めとした従来技術では探査不能なあらゆる大型構造物へ適用可能であることから、工業用プラントや社会インフラの点検技術などの幅広い応用領域を開拓するものであり、今後の進展が大いに期待される。

図1

図2