市村学術賞

第52回 市村学術賞 功績賞 -01

超分子重合の開拓と革新的ソフトマテリアルの創成

技術研究者 東京大学 大学院工学系研究科
教授 相田 卓三
推  薦 東京大学

研究業績の概要

 1920年に高分子物質(ポリマー)が次元性のないコロイド的集合体(コロイド説)ではなく、共有結合で繋がった一次元の巨大分子である(高分子説)ことがStaudinger博士により実証され、「高分子科学」という学術分野が誕生した。高分子物質は人類の生活様式を近代化し、大きく変えた。しかし、高分子科学生誕100周年を前に、その代表的な産物であるプラスチックによる環境破壊が深刻さを増している。そんな中、ポリマーに代わり得る新しい素材として今「超分子ポリマー」が注目されている。超分子ポリマーとは不可逆的な「共有結合」ではなく、可逆的な「分子間相互作用」で小分子(モノマー)を繋いだ「次元性を有する分子集合体」である。今熱い視線が寄せられている超分子ポリマーは、皮肉にも100年前に否定されたコロイド説を洗練させた概念である。組み替え可能な可逆的結合からなることを特色とする超分子ポリマーは、原料までの完全なリサイクルが可能なばかりか、結合の可逆的な組み替えにより構造を再構成でき、環境・生体適合性、自己修復性、環境適応性などを容易に付与できる。1988年、受賞者は世界に先立ち「ディスク状分子の疎水相互作用を介したスタックによる一次元分子集合体」を発表し、その後Lehn(1990年)、Meijer(1997年)らが発表した水素結合を用いる一次元分子集合体とともに「超分子重合/超分子ポリマーの基本概念」を構築した。受賞者は、この基本概念を磨き込み、伝統的な重合反応との間の多くのギャップを埋めたばかりか、伝統的な重合反応では実現不可能な性能の発現にも成功した。さらに、基本概念を柔軟に拡張し、バッキーゲル、導電性ナノチューブ、ATP応答性ロボティックキャリア、アクアマテリアル、自己修復樹脂ガラス、自己修復多孔性結晶、ANDロジックゲート駆動液晶(図1)など、世界を驚かせる多くの革新的機能材料を開拓している。

図1