市村学術賞

第53回 市村学術賞 貢献賞 -02

生命現象の光操作技術の創出

技術研究者 東京大学 大学院総合文化研究科
教授 佐藤 守俊
推  薦 東京大学

研究業績の概要

 蛍光タンパク質の実用化を契機として、可視化計測技術が世界中で利用され、生命科学の発展に大きく貢献してきた。しかし、光技術の未来は必ずしも可視化計測技術に限定されない。受賞者は、可視化計測技術とは全く異なる展開として、光を使って様々な生命現象を意のままにコントロールするための革新的な光操作技術を創出し、大きなブレイクスルーをもたらした。光操作技術を実現するために、受賞者は、アカパンカビ(Neurospora crassa)が有する小さな光受容体タンパク質に着目し、これに対して多角的にプロテインエンジニアリングを施すことにより、光刺激を与えると速やかに二量体を形成し、光刺激を止めると解離する光スイッチタンパク質を開発した。この“Magnetシステム”と名付けられた光スイッチタンパク質の開発により、光が得意とする高い時間・空間制御能に基づいて、様々な生命現象を、狙った細胞・生体部位のみで、かつ狙ったtime windowのみで、自在に光操作することが可能になった。さらに受賞者は、Magnetシステムを用いて、ゲノムの塩基配列を光刺激で書き換える技術やゲノムにコードされた遺伝子情報を光刺激で自在に読み出す技術、腫瘍溶解性ウィルスのゲノムを光刺激で増幅してがん細胞を破壊する技術など、世界初の光操作技術を次々と開発すると共に、これらの技術が生体外からの非侵襲的な光刺激でも利用できることをマウス生体を用いて実証してきた。このように受賞者は、生命現象の光操作を実現するための基盤技術としてMagnetシステムを開発するとともに、主として、生命の設計図であるゲノムを自在に光操作する技術を開発し、光操作に基づく新たな学問分野・技術分野の潮流を生み出した。

図1