市村学術賞

第55回 市村学術賞 貢献賞 -05

理工学視点からの骨基質配向機構解明と金属3DPを用いた骨質医療への展開

技術研究者 大阪大学 大学院工学研究科
教授 中野 貴由
推  薦 大阪大学

研究業績の概要

 骨基質配向性は、コラーゲン線維と平行配列するアパタイト結晶の3次元優先配向方位と配向度合で決定される。受賞者は、骨基質配向性が、骨質(骨密度では説明できない骨強度指標)の最重要因子であることを突き止めた。加えて、骨基質配向化構築の仕組みを解明するとともに、骨基質配向性を誘導可能な世界初の脊椎スペーサーを開発し、2021年にPMDA承認、2022年より大規模臨床応用を開始している。この新規脊椎スペーサーは、金属3DP(3Dプリンティング)でしか実現できない階層型一方向性溝&孔構造からなる “Honeycomb Tree Structure®(HTS)”を内包し、細胞に直接働きかけることで、これまで困難であったデバイス埋入初期からの健全な骨基質誘導を可能とした(図1)。
 受賞者は、世界に先駆けて、骨基質配向性が骨部位に強く依存することを解明し、「骨基質配向性」が「骨密度」よりも骨強度を強く支配する骨質因子となりうることを理工学的手法により見出し、その形成機構に関する多くの知見を得てきた。例えば、骨再生時には骨強度の約7割が基質配向性により支配され、骨疾患での大部分の機能低下は、基質配向性の破綻に由来する。さらに、申請者は金属3DP研究にも取り組み、3DPは複雑外形状のみならず、内形状や原子配列をも自在に操れることを世界に先駆けて実証している。
 今回開発した世界初のコンセプトによる骨基質配向性誘導スペーサーは、「骨基質配向性」と「金属3DP異方性造形」との融合によって初めて誕生した。HTSの新規構造は、骨/デバイス界面のすべてに適用でき、計り知れない波及効果がある。骨医療にて、骨密度から骨質医療へと刷新する基礎・応用技術であり、日本発の金属3DP成功事例ともいえる。

図1