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高齢化が進む社会構造に対応して、高効率な在宅医療システムへの移行が急速に進んでいる。それに伴い、セルフケア(自己診断・自己治療)およびセルフメディケーション(自己服薬)の一層の充実が求められており、その実現には、ウェアラブルおよび埋込デバイスの「生体親和性」をこれまで以上に高める必要がある。
受賞者は、従来の物質的な生体親和性の向上を基盤としながらも、生体がイオンの流れによって情報や機能を制御している点に着目し、「生体系メカニズムへの親和性」を高める新たなアプローチとして、「電子・イオン・分子・流れ」を相互変換する技術群を創出した。具体的には、電気信号とイオンの流れを効率よく変換するソフト高容量有機電極、分子のエネルギーをイオン流に変換する伸縮性酵素電極、ならびにイオンの流れを利用して分子を輸送するイオンゲルおよびポーラスニードルなどである。
これらの技術を応用したハイドロゲル製の脳神経電極(硬膜下ゲル電極およびカフ型神経ゲル電極)は、臨床試験において有効性と安全性が確認され、現在は上市に向けた準備段階にある。一方、伸縮性酵素電極によって糖分と酸素から発電するオール有機のバイオ発電パッチや、ポーラスニードルを利用した電気浸透流(EOF)デバイスは、経皮投薬の効率を大きく向上させ、医療資源の限られた地域での医療アクセス格差の是正にも貢献する成果である。
受賞者が創出したソフト・ウェット材料に基づくイオン駆動型医療デバイスは、生体システムと調和した低侵襲な医療介入を可能とし、次世代のセルフケア医療の発展に寄与するものである。さらに、生体親和性の概念を「物質」から「メカニズム」へと拡張することで、新たな学際領域である「生体イオントロニクス工学」の確立にもつながる成果として期待されている。

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