|
高分子ゲルは食品、衛生用品、ソフトコンタクトレンズなど身近な材料として広く用いられてきたが、内部の網目構造が本質的に不均一であるため、物性を理論的に予測・設計することが難しかった。長期安定性や再現性が得にくいといった課題は、特に高い信頼性が求められる医療応用で大きな障害となっていた。受賞者は、この「構造不均一性」をゲル科学の中心課題と捉え、分子構造が既知で再現性の高いゲルを基盤に、構造―物性相関を数式で扱える精密ゲル科学の確立を目指した。
受賞者は、二種類の四分岐高分子前駆体(テトラ型高分子)を用いた架橋反応により、理想的に均一なネットワーク構造をもつゲル(テトラゲル、図1)を世界で初めて創製した。四分岐前駆体同士を精密に反応させることで、架橋点分布のばらつきを抑え、理想モデルに近いネットワークを実材料として実現した。均一構造に立脚することで、弾性率、変形性、ゲル化時間、膨潤挙動、物質透過性などの諸特性を、経験則ではなく理論的予測に基づいて設計する道を開いた。さらに、ゲル化過程における浸透圧の普遍法則、ゴム弾性における負のエネルギー弾性など、新しい物理概念を提示し、ゲルを「理解困難なソフトマテリアル」から「数理で設計可能な材料」へと位置づけ直した。
本業績の特長は、学理の確立と医療材料開発を一体で推進している点にある。従来、医療用ゲルは試行錯誤により設計・評価を繰り返すため開発に年単位を要したが、受賞者はテトラゲルを核とするプラットフォームにより、目的物性をもつプロトタイプを約1か月で設計・試作可能とする手法を確立した。これを基に、眼内で膨潤しない人工硝子体ゲル、血液凝固能に依存しない完全合成止血剤、胆汁漏シーリング剤など、臨床課題に直結する材料を提案・開発している(図2)。加えて、スタートアップを通じて企業連携を進め、癒着防止材、腱・靱帯治療用ゲル、神経再生用ゲル等の社会実装を加速している。主要国際誌を含む多数の論文発表と知財化を通じ、ゲル科学の基盤形成と医療応用の両面で、再生医療やDDS等への展開も含めた波及効果が期待される。
|