公益財団法人 新技術開発財団 THE NEW TECHNOLOGY DEVELOPMENT FOUNDATION  
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受賞者訪問
耐塩酸性を飛躍的に向上させた耐硫酸性鋼「新S-TEN1」の開発
第39回(平成18年度)市村産業賞 功績賞受賞
新日本製鐵株式會社

<受賞者>
技術開発本部 宇佐見明さん 児嶋一浩さん
厚板営業部 奥島基裕さん

<全体マネジメント> 
厚板営業部 田中睦人さん
 
ガス低温化で新たな腐食問題が・・・・
塩酸によって急速に進んだ煙突内面の腐食 ごく簡単に表現すれば、「塩酸にも硫酸にも強くなった画期的な耐食性普通鋼」。それが新日本製鐵(以下新日鐵)の「新S-TEN1」だ。S-TEN1は化石燃料を使うプラント排煙設備用の耐硫酸性鋼として昭和40(1965)年に開発。以来今日に至るロングセラーで、耐硫酸性鋼の代名詞ともなっている。そのバージョンアップ商品との位置づけで「新」をつけた。
 新S-TEN1開発のきっかけは、1990年代末から特にごみ焼却設備の排煙装置での新たな腐食事例の頻発だった。ダイオキシン規制に伴い排ガスの急冷化・低温化が進められた結果、食品ごみやプラスチック等から発生する塩化水素濃度が上昇。装置鋼材の低温となる部分で塩酸が結露することが原因で、発生すればおよそ2年で穴が開くケースもあった。
 プラントには従来から普通鋼が主に使われている。塩酸腐食への対応は、これを高合金鋼(鉄以外の合金元素を10%程度以上加えたものでステンレス鋼もその一種)に換えることがまず考えられる。しかし高合金鋼は施 工性、コスト面で採用が非常に困難であり、やはり「耐塩酸性に優れた普通鋼」が強く求められた。

化学組成探求で生み出した“世界初”
 新たな腐食環境発生で急に高まったニーズの中、初めてのチャレンジとなる耐塩酸性普通鋼の開発は、容易ではないが、S-TEN1を超える耐食鋼開発という目標を持ったテーマとなった。
 研究開発チームは、鋼材が酸に溶けるのは、酸中の水素イオンが鋼中の電子を奪い水素ガス化する化学反応であるという基本原理に改めて着目した。研究部門で開発に携った宇佐見さんが説明してくれた。「腐食は電池の 原理と共通の電気化学反応です。この反応を抑制するために行ったのが、各種合金元素の耐塩酸性検討に基づいた元素量の制御、すなわち最適な化学組成の探求です。その結果、少しの化学組成の変更と組み合わせで耐塩酸性が飛躍的に向上することがわかりました」。
 その過程で、耐塩酸性とS-TEN1が誇る耐硫酸性との両立という壁にも遭遇したが、連日の頑張りでそれを克服。世界初の、従来の3倍以上塩酸に強く、また硫酸にも強い耐硫酸・塩酸露点腐食普通鋼を生み出した。
80℃、10%の塩酸での腐食実験。右のステンレス鋼は、投入後すぐ板が見えないほどの水素ガス発生が始まった。左が新S-TEN1
塩酸腐食実験後のサンプル。左から普通鋼、新S-TEN1、ステンレス鋼(初期寸法はすべて25×25×4mm)

生産体制OK、溶接材料もOK
 研究開発段階で試作したおよそ100kgの耐塩酸性鋼を、何百トンもの商品として工業化する・・・そのマッチングを手がけたのが名古屋製鐵所で新S-TEN1の造り込み、いわゆる製鋼・熱間圧延工程等の操業条件確立に関わった奥島さんだ。「S-TEN1+αの特性を持った研究所のシーズと、お客様が特にお求めの使いやすい普通鋼というニーズを合致させる各種特性と条件を評価検証。商品としての性能・品質を満足した上で、鋼板はじめ、鋼管等各種商品の生産体制を短期間で確立できたのは大変よかった」。
  さて、鋼材ができても同等の性能を有した溶接材料がなければ、構造物としての機能は発揮されない。「溶接の方法によって複数の溶接材料が必要です。従来の溶接材料では、その耐食性は必ずしも十分でなかった。そこで鋼材と同様の思想で溶接金属の耐食性を向上。さらに現場での溶接姿勢を考慮した作業性の良い溶接材料を作り上げることに成功しました」と語るのは、接合研究センターで溶接材料開発を担当した児嶋さん。

新S-TEN1誕生に一体となって携わったチームの代表のみなさん。左から田中さん、児嶋さん、宇佐見さん、奥島さん
新S-TEN1の商品の一部(左:厚板、右:冷延鋼板)

“腐食”は永遠に挑戦するテーマ
 “類のない耐食性、施工・溶接性は普通鋼並み、厚板・熱延/冷延鋼板・鋼管・溶接材料の品揃え、ステンレスを圧倒する経済性”の新S-TEN1は、ダイオキシン対策の法令義務化に先立つ平成14(2002)年10月、腐食設備補修用の即納ニーズに対応する体制も整え発売された。
  国内外の100社以上で3万トンを超えて採用され社会的にも高く評価されている。今後酸が発生する排煙処理施設、酸の貯蔵・輸送機器への拡大、および経済発展の中、大気汚染対策を急務とする東アジア地域はじめ海外プラントでの飛躍的な需要増大が見込まれている。
  新S-TEN1は鋼材全体ではニッチな商品である。が、メンテナンスコスト削減、循環型社会実現にとって多大な貢献を果たした今回の活動を、全体のマネジメント役を務めた田中さんが締めくくった。
  「研究の立上げから工業化まで普通6〜7年。今回それを2年で成し遂げました。これは組織横断の約20名のプロジェクトメンバーが、高い目標に意気を感じ、情報を共有し、一体となって取り組んだ成果にほかなりません。腐食は我々の永遠の課題。今後もこの姿勢で社会ニーズを先取っていきます」。
新S-TEN1は火力発電所(上)や、廃棄物処理工場(下)のボイラー、排煙設備はじめ多様な用途を
 
取材:平成19年4月13日  新日鉄鉄鋼研究所